群馬大学内科診療センターは、内科系すべての疾患の診断および治療を網羅しています。生活習慣病、膠原病、癌、循環器救急、リハビリテーション、遺伝子診断、フットケアといった多くの診療領域が関わる分野を協力して診療しています。近年の新薬や治療デバイスの開発は目覚ましいものがありますが、当センターでは最先端医療の治験に数多く関わり、医療の進歩に貢献しています。
循環器内科 小保方 優
循環器内科では心不全の早期診断を目的とした運動負荷試験を積極的に行っています。高齢化や生活習慣病の増加によって心不全患者数が増加の一途をたどっており「心不全パンデミック」に直面しています。薬物・デバイス療法の進歩にもかかわらず、心不全患者さんの予後はいまだに改善されていません。この状況に立ち向かうべく、心不全を早期に診断し介入しようとするパラダイムシフトが起こっており、運動負荷試験は早期診断を可能にする有用なツールです。
当科では運動負荷心エコー図検査を国内トップレベルの件数で実施しています。さらに、エルゴメーター(自転車)をこぎながら右心カテーテルをして運動中の心内圧を測定する侵襲的心肺運動負荷試験も行っています(図)。運動負荷試験を数多く実施している施設は世界的にも多くはないため、運動負荷試験の貴重なデータを使って精力的に臨床研究をしています。2020年からの4年間で35編の原著論文・総説を発表しており、大学院生、後期レジデントの先生に積極的に論文執筆に関わってもらっています。さらに、他大学病院から3名の国内留学生を受け入れており、臨床研究と運動負荷試験の指導をしています。
これまで、運動負荷データを使った観察研究がメインでしたが、二つの多施設共同ランダム化比較試験も実施しています。臨床研究をすることで, ①診療の質をあげられる, ②自分の診療を顧みることができる, ③数年後の医療に貢献できるかもしれない, ④視野(世界)を広げられると考えています。
私たちの活動に興味のある先生がおられましたら下記Twitterも参考ください。ぜひ一緒に数年後の心不全医療に貢献できる仕事をしましょう。
@EchoLab_Gunma
女性医師の増加に伴い、多彩なキャリアプランが医師にも求められています。群馬大学医学部附属病院には医師ワークライフ支援プログラムがあり、育児をしながらの勤務にフレキシブルに対応します。男性も利用可能です。院内には病児保育にも対応する保育施設があり、好評です。
腎臓・リウマチ内科 大崎愛果
群馬大学にて医師ワークライフ支援プログラムを利用し、2人の子供の子育てをしながら勤務しております。現在は週3日間、9時から15時まで当院に勤務し、主に外来診療を担当しております。家庭では、子供が小さい時は食事など日常生活のお世話に多くの時間がかかりましたが、大きくなってからも家庭学習や習い事のサポート、PTAや学校行事の参加などが必要であり、現在の勤務体制のおかげで家庭生活が成り立っていると実感します。
当院で医師ワークライフ支援プログラムの利用は、利用年数や子供が未就学の間などという期限が特に設けられておらず、安心して家庭を大切にし続けながら仕事に従事できております。また、短時間勤務ながらもキャリアを継続できていることで、医師としての経験も地道に重ねられ、出産後に専門医も新たに2つ取得することができました。
どんな方も長い医師人生の中では、育児や介護など様々なライフイベントに直面し悩むこともあると思いますが、多様な働き方を認めてくれる当院での医師ワークライフプログラムを利用し、心豊かな人生を実現して頂ければと思います。
群馬大学内科診療センターは群馬大学大学院医学系研究科の「内科学」という講座でもあります。伝統的に分子生物学的手法に強く、遺伝子改変動物を用いた臨床医学に繋がる最先端の基礎研究を行い、Nature誌をはじめとするトップジャーナルに数多くの論文を発表してきています。また多くの若手医師が、各学会で数多くの栄誉ある賞を受賞しています。
内分泌糖尿病内科 石田恵美
群馬大学の内科学講座では、病院で内科臨床に携わるのみならず、医学部附属病院ならではの研究活動も盛んです。私は後期研修として病態制御内科学(内分泌糖尿病内科の前身)に入会し、病院勤務で臨床の研鑽を積んだ後、医師4年目で大学院に進学しました。
臨床家が研究を行う意義は、臨床の現場で見出した医学的問題を研究に持ち込み、研究結果を自らの手で患者さんに還元できる部分にあると思います。当科は多くの先輩方が大学院進学や海外留学経験を持ち、衒いもなく臨床と研究を行き来する文化があり、十分に基礎研究の手ほどきを受け、私自身も海外留学を経験させて頂きました。私の現在の研究テーマは、糖尿病におけるβ細胞機能不全を栄養学と結びつける基礎研究で、留学先で行っていた研究を発展させたものです。基礎研究と聞くと自分からは遠いものに感じるかもしれませんが、実際自分の研究成果を発表すると意外と国内外の研究者から引用され、次なる医学究明の礎になっていくのを目の当たりにします。普段病院で使用している臨床手法が、無数の医学研究者のたゆまない研鑽の積み重ねの上にある事を思い、自らも研究を学び世界に発信しようとする後輩を当講座は必ず引き上げてくれると思います。それほど大げさに構えずとも、「理科の実験楽しい!」くらいの気軽な動機で十分ですので是非一度研究の道に踏み入ってみてください。
留学というキャリアプランを提示できるのが大学の強みかもしれません。これまで欧米の有名な大学や研究機関に数多くの臨床医や研究者を送ってきた実績があります。アメリカ国立衛生研究所(NIH)、ハーバード大学、ジョンズホプキンス大学、ペンシルベニア大学など過去10年で30名以上の医師を派遣しています。基礎研究だけではなく臨床研究での留学も近年増加傾向です。
脳神経内科 塚越設貴
2020年4月から3年間、米国フロリダ大学医学部Center for NeuroGenetics, Department of Molecular Genetics & MicrobiologyのLaura Ranum教授のもとで研究を行っておりました。無事に帰国したところで執筆の依頼をいただきましたので、生活面、研究面を中心に振り返ってみたいと思います。過ぎてみればあっという間で充実した3年でしたが、コロナ禍での海外生活は想像以上に苦労が多かったです。
2020年3月にビザ発券停止となる1週間前にビザを取得し、すべり込みで渡米することができましたが、アジアからの入国者には14日間の自主隔離が課されました。ようやく隔離解除となった矢先、今度は全米がロックダウン状態となってしまい、5月下旬まではスーパー以外外出せずに引きこもっていました。研究室も閉鎖され、実験動物の飼育もすべてストップとなってしまい、週3回オンラインでのミーティングで論文の抄読や研究内容の発表などを行っていました。7月からようやく研究室が収容率50%で再開され、午前・午後の2グループに分かれて研究を行っていました。フロリダ州は高齢者が多く、陽気な人柄も関係しているためか、一時は全米一の新規感染数でしたが大規模なロックダウンは1度だけで、秋ころから徐々に日常を取り戻し、1年ほどでほぼ通常通りに過ごせるようになりました。
主要な研究テーマはトランジェニックマウスを用いたSCA8の治療法の開発で、前述の実験動物の飼育がストップしてしまったことや飼育期間が少し延長してしまったこともあり、当初の予定よりも1年ほど時間がかかってしまったものの無事に終了し、行動実験で得たデータをまとめたり、解剖して採取した脳や脊髄などの組織を用いて、免疫染色やタンパク質実験を行ったりしました。中間発表として国際学会にて口頭発表の場を設けることができ、今後の研究の方向性を見極める貴重な意見交換ができました。そのほかにも未知の遺伝性運動失調症や日本では診ることのできないFriedreich’s Ataxiaの剖検組織を用いて免疫染色を行うなど、幅広く研究に関与させていただき、充実した日々を過ごすことができました。
フロリダ大学は、3㎞四方の非常に広大な敷地の中に9万人を収容できるスタジアムやゴルフ場なども有するとても大きな大学です。オーランドやマイアミなどの大都市圏からは離れた小さな学園都市にあるため、治安も悪くなく(良いとは言えませんが)、過ごしやすい街でした。
健康面、安全面では大きなトラブルもなく3年間を無事に過ごすことができましたが、一方で実験が思うようにいかなかったり、言葉の面で苦労したりすることも多く、悔やまれることも多くあった3年間でした。今後は留学で得た知識や技術を内科診療センターに還元していけるよう頑張りたいと思います。